神様のボート

冷静と情熱のあいだ

ホリーガーデン

江國香織の言葉

神様のボート

神様のボート

出版社:新潮社
単行本発売日:1999/07
文庫:286ページ

P.144 野島葉子
一度出会ったら、人は人をうしなわない。
たとえばあのひとと一緒にいることはできなくても、あのひとがここにいたらと想像することはできる。あのひとがいたら何と言うか、あのひとがいたらどうするか。それだけで私はずいぶんたすけられてきた。それだけで私は勇気がわいて、ひとりでそれをすることができた。

P.214 野島葉子
あのひとと出会ったのも夏だった。あのひとがいなくなってしまったのも、また。
二年間。信じられない気持ちで私は考える。あのことのすべてがその二年間に起きたのだ。私の人生を変えてしまうことになる出来事のすべて、草子の人生が始まってしまうことになる出来事のすべてが。

P.216 野島葉子
「私たちに言葉なんか必要なかった」
「言葉なんてまるで役に立たなかった」

P.218 あのひと
信じてほしい。一瞬でも疑わないで。俺はかならず葉子ちゃんを探しだす。どこにいても。すこしのあいだ離れなくちゃならないけど、どこにいても一緒だし、かならず戻ってくる。すぐに。

P.224 野島草子
あたしは現実を生きたいの。ママは現実を生きてない。

P.248 野島葉子
あのひとと必ず会えるなんて、一体どうして信じていられたのだろう。草子がいなくなってしまったいま、あのひとの存在さえ、私の想像の産物だったような気がする。あの目も、あの声も、あの腕も。草子がいなくなってしまったいま、あのひとがかつてたしかにこの世に存在し、私を愛してくれたということを、示す証拠は何一つない。

P.271 野島葉子
何のために朝起きるのか、何のためにごはんなど食べるのか、何のために働いたりするのかあいかわらずさっぱりわからないまま、もう一度あのひとに会うためだけに生きている。草子に叱られるとしても、あのひとをかなしませるとしても、ほかにどうしようもないのだ。

P.274 あのひと
いつか俺たちが死んだら、水になるね。
こうやって抱きあったまま、水になって流れていく。

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